ウラナイ8の偏愛部部長は深瀬まるさん。不定期連載の「業業カフェ」で偏愛に生きる人を紹介しています。

四柱推命では「偏」とペアになるのが「正」。陰陽が揃っているのを正しい形とするので、自分が陽で陰を剋す、あるいは陰が陽を剋すのが正財で、陽と陽、陰と陰だと偏財になります。官にも正偏と正官があり、また、印も陰陽が同じだと偏印となります。

四柱推命に熱中したのは、講座の初めに「偏りこそ個性」と聞いたから。私自身の命式がかなり偏っていて、五行のバランスを整えるよりも偏りを活かした生き方をしようと思い立ちました。

みんなが同じ物を求めたのでは、競争が激しくなるし世の中が単調になります。陰陽揃って調和がとれているのも美しいけれど、偏った組み合わせから奇想天外なものが生まれます。

「偏愛」という言葉を初めて目にしたのは、中国文学研究者の井波律子がボブ・ディランのバックバンドも務めたザ・バンドを偏愛しているという記事。中国文学とカナダのロックバンドという組み合わせが、いかにも「偏愛」だと思いました。

この十数年、フィンランドへの偏愛が私を突き動かしてきました。きっかけは日本で2012年に公開された『ル・アーヴルの靴みがき』。フィンランド人のアキ・カウリスマキ監督によるフランス語映画です。観終わった後、吉祥寺のミニシアターの座席からすぐには立ち上がれず、カウリスマキ監督の作品を片っ端から借りて全部観ることにしました。

そしてレニングラード・カウボーイズを知り、ヘルシンキ大聖堂前で行われた『トータル・バラライカ・ショー』を繰り返し観ました。当時、カウリスマキ作品のDVDボックスは品切れで中古で7万円ほどに跳ね上がっていて、レンタル屋で繰り返し借りていました。店員に「これ、先週も借りていますけど」と言われて恥ずかしかった…。

ハマったのはリードボーカルのJore Marjaranta。名前の読み方だけでなく、巨大リーゼントにサングラスで顔もよくわかりませんでした。ひたすら彼の歌声を聞き続けていたかったのです。

その後、中野の教会のフィンランド語入門講座にも通って、Jは英語のYの発音と教わり、ヨレ・マルヤランタと読むとわかりました。しかしいくら好きでも、1996年に彼はレニングラード・カウボーイズを脱退していました。リアルタイムで知っていたら、仕事を投げ打ってフィンランドに渡って追っかけをしていたかも。

それでもフィンランド熱は収まらず、フィンランド人とつながる手段はないかと考え続けました。フィンランドの留学記には「フィンランド人の国民性はシャイで、友達ができたのは2年前だった」などと書かれていたため、カウチサーフィンで日本好きのフィンランド人旅行者をホストして強制的に友達になることを始めました。

その延長で日本語学校のフィンランド人留学生のホストファミリーを引き受け、日本語教師の資格を取り非常勤で教えるようになりました。

フィンランドと言えばムーミン、マリメッコ、シベリウスあたりが世界的に知られています。「レニングラード・カウボーイズが好き」というとフィンランド人にさえ怪訝な顔をされますが、変わっているからこそ、フィンランドへの愛がずっと続いてきたような気がします。

現在、ヨレ・マルヤランタは専業主夫のかたわらフィンランド国内で音楽活動を続け、夏のザリガニ・パーティーの余興に呼ばれたりしているようです。小さな国なので芸能人と一般人の垣根も高くなく「そんなに好きなら、そのうちサインをもらってあげるから」と言われたこともあります。

熱病のようなフィンランドへの偏愛が続いたおかげで、退屈する暇もありませんでした。できれば死ぬまで偏愛の対象を持ち続けたいものです。

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