キレる高齢者ほどみっともないものはありません。社会のお世話になっていながら、文句を言うなんて。脳の機能が衰えたせいかもしれませんが、できれば私はそうなりませんように。かわいいおばあちゃんになれないとしても、せめて温厚な老婆になりたいものです。

両親を送って面倒な親戚とは距離を置けるようになり、仕事もリタイア状態に移行。好きなことだけやって暮らしているので、怒りを感じることはほぼなくなりました。

しかし先日、久しぶりに頭に血が上る出来事が。器の小さい私は怒りを感じるだけですべてが投げやりになります。愚痴をこぼしながら、赤ワインを飲んで気持ちを静めました。

そんなときに巡り合ったのが元阪神タイガースの鳥谷敬の「怒るという感情はなんの役にも立たない」という記事。

鳥谷は阪神タイガースらしくない優等生。東京出身でお笑いとは縁のない真面目なタイプ。

怒りをあらわにすることは自分にも周りにもマイナスでしかない。常に冷静でいることが最高のパフォーマンスを生む。だから私は一切の感情を試合中に出さなかった。

野球選手の鳥谷敬というのを一生懸命演じている。そういう感じだった。

え、そうだったの! プロスポーツの選手は自分の能力を最大限に誇示するオレ様だろに、なんとストイックな。

殊勲打を放っても、決してガッツポーズはしない。相手を「なにくそ」と発奮させることになるかもしれないからだそうです。

「たとえ逆転打を放っても、相手の攻撃が控えているのであれば、その瞬間からすぐに守りに対する意識を持つ」とか「サヨナラホームランで勝利しても、ペナントレースはまだ続く。浮かれることなく翌日の試合に備えて頭を切り替える」など鳥谷はどこまでもストイック。缶ビール飲みながら観戦してごめんなさい。

しかし、そんな鳥谷もプロ15年目となると打力が衰えてきます。レギュラーではなく代打で出場するようになり、試合終盤の9回に出番が巡ってきて、走者がいるので打てば勝利。なのに、送りバントのサインを出されます。

もちろん、1点を争う大切な場面である。ひとつでも先の塁にランナーを進めて、後続のバッターに託したいという監督の意図は理解できる。

ただ、長いプロ生活において、こうした場面でバントのサインが出たことはなかった。ベンチからのサインは絶対である。もちろん、指示にしたがうしかない。

さすがの鳥谷も「ファウルでもいいや」という投げやりの気持ちになります。バントをわざと失敗すれば、個人的な留飲は下がるかもしれませんが、鳥谷は冷静に考えます。

ベンチでは若い選手が見ていた。当然、わたしにバントのサインが出ていたことも知っている。彼らもプロ選手である以上、「本気でやって失敗した」のか、それとも「最初からファウルを打つつもりだったのか」はすぐに理解するだろう。

もしもわたしが若手選手だとしたら、その先輩選手を軽蔑するだろう。一時の感情に我を忘れ、首脳陣からの指示を無視するような先輩に対して、「口では偉そうなことをいっていても、いざというときに自分勝手なプレーをする人なのだ」という目で、その人のことを見ることだろう。

逆に、怒りの感情を表に出すことなく、淡々と自分の役割をこなすとしたら、わたしはその先輩のことを「かっこいいな」と尊敬することだろう。

鳥ちゃん、本当にえらいよ。

私はまだそんな境地に達していません。それでも、怒りを感じたら、温厚な老婆の仮面をかぶって穏便にやりそうごそうと思うようになりました。

ただ、タイガースファンとしては鳥ちゃんよりエモやん(江本孟紀)が好きです。先発登板して8回途中に交代を命じられ「ベンチがアホやから野球がでけへん」と口走りました。

なんとスカッとした言葉! この頃はタイガースの低迷期でしたから、采配に疑問を持つファンの代弁となりました。アンガーマネジメントは大切ですが、本当の気持ちを押し殺してばかりいると心が死んでしまいます。時には暴言を吐いて発散させてもいいのでは。

エモヤンはこの発言がスポーツ紙に大々的に報じられ、現役引退を余儀なくされましたが、著書『プロ野球を10倍楽しく見る方法』がベストセラーとなり、芸能界と政界に進出し多彩な活躍を見せました。。

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