「何々が好き」という意味の"be fond of"のfondは、かつて「愚かな、狂った」という意味で使われていたそうです。何かに愛着を感じると、理性を忘れて愚かになるから。推し活に多大なエネルギーを投じている方ならわかるのではないでしょうか。"like"が軽めの「好き」を示すのに対し"fond"は自分だけのお気に入り、昔からずっと好きというニュアンスがあります。そして"crazy"もある対象に熱狂的に夢中になっている状態を示す場合もあります。
英語のレッスンで「好きと愚かは仲良し」と習いました。
たしかに、ホストに貢ぐために体を売るというのはいかがなものかと思いますが、社会生活を維持しながら愚かになるほど好きになる対象があるのは幸せなことです。何より退屈しません。かくいう私も、長い人生を振り返ってみると常に愚かになってきました。
10代の頃のアイドルはなんといってもボブ・ディラン。同世代にはまったく理解されませせんでしたが、歌詞の意味を知りたくて英語を学んだのは受験にも役に立ちました。大学時代はグレイハウンドバスでアメリカ大陸をを横断してニューヨークを目指す旅に。そこで夫と出会ったのですから、愚かになった甲斐があるというものでしょう。
20代はU2。ボノと私は同い年です。アイルランドにどうしても行きたくて、100万円貯めて会社を辞めました。すでに結婚していたので、一人でアイルランドを3か月放浪するのはまともな大人のすることじゃないと言われました。でもこの時に「旅こそ私の生きる意味」と実感できたのです。
30代、40代は仕事が忙しくてあまり愚かにはならず、振り返ってみるとつまらない20年間でした。再び狂ったのは50代、フィンランドのレニングラード・カウボーイズ。フィンランド人の友達を作るためにカウチサーフィンを始め、日本語教師の資格も取るほどの入れ込みようでした。
フィンランド熱が治まると、次はスペイン巡礼。7週間かけて700キロを歩くというこれまた狂った計画です。
そして今、長年愛読していたガルシア=マルケスを巡るコロンビアへの旅画を一か月後に控えています。コロンビアで反政府ゲリラに誘拐されたら、ネットでさんざん叩かれるだろうという恐怖はありますが、狂っているから強行するしかありません。そういえば、狂っている対象のひとつであるBTSも「狂わずにいるためには、狂わないといけない」と歌っています。彼らのように踊れるわけでもないのに、ヒップホップのレッスンを続けているのも狂っているからです。