ガルシア=マルケスの著作には、よく占いの話が出てきます。
自伝『生きて語り伝える』では、母のルイサ・サンティアーガ・マルケスを「典型的な獅子座」と紹介しています。長所としては、ユーモアのセンスがあること、鉄のように頑健な体、そして途方もない性格的な強さを巧みに覆い隠す才能。11人の子供に加えて夫の婚外子、遠縁の親戚まで「いくつもの惑星を引き従えた小さな太陽系のように、台所でいんげん豆の厚鍋を火にかけながら、ほんの小さな声で、瞬きもせずに支持を出して統御」したというのです。
一家の反対を押し切って結婚したのも獅子座的な強さでしょうか。
現代とは道徳観念が異なるとはいえ、父のガブリエル・エルヒオ・ガルシアは条件が悪すぎます。愛想のいい伊達男ですが、結婚前に二人も婚外子を作っていたのです。二人目の子供の母親とはいずれ結婚すると約束したけれど、ルイサ・サンティアーガを愛してしまったというのですから、家族でなくても結婚を止めるように言います。
ルイサ・サンティアーガの結婚への決意を支えたのが、街角のジプシー女によるトランプ占い。「長く幸福な生涯を、たった一人の男とともに問題なく生きる。その男は死ぬまで愛してくれる」と告げられたのです。ルイサ・サンティアーガとガブリエル・エルヒオはこの占いを熱狂的に受け止め、どんなに反対されても結婚すると決意を固めたのでした。
この占いがなければ、ガルシア=マルケスはこの世に誕生していなかったわけで、彼が占いを信じるようになったのもわかります。
『百年の孤独』のアウレリャノ・ブエンディア大佐のモデルは母方の祖父で、文章のスタイルは祖母の語り口。『コレラの時代の愛』は両親のロマンスに着想を得ています。父のガブリエル・エルヒオは「小説を書きたいと思ったことはないか」と質問されて「書きたいと思ったが断念した。息子が書いている小説が、自分の書いてみたいと思っていた小説そのものであることに気づいたからだ」と語っています。
スペイン語圏では夫婦別姓で、子供は父親の姓を名乗るか、父母の姓を重ねます。ガルシア=マルケスのファーストネームはガブリエルなので、ガブリエル・ガルシアでもいいのですが、「ガルシア=マルケス」という呼称を選んだのは両親の結びつきこそ自分の原点だという思いがあったからではないでしょうか。
そして、占いが当たるか当たらないかよりも、占いを信じられるかどうかが重要です。人は信じたいことを信じますから、客が望んでいることだけを口にすれば簡単に信じてもらえるでしょうが、それは占いではありません。その場では「はずれている、そんなはずがない」と言われても、占いの結果に誠実に向き合い続けることが、信じられる占いに到達する道です。