料理が得意ではないので、ミツカンのカンタン酢に大いに助けられています。野菜をオーブンで適当に焼いてカンタン酢をかけたり、残りご飯を使って散らし寿司も簡単にできます。

株式投資の始まりは、スーパーでよく買う食品を製造している企業の株でした。たとえばキューピー、カゴメ、ハウス食品、キリンビールなどおなじみのメーカー。桐谷さんの株式優待ブームもあって、大いに値上がりしたのが最初の成功体験です。ミツカンの株もぜひ買いたかったのですが、同族経営で非上場です。

そのミツカンがお家騒動で揺れています。

婿養子として迎えられた男性が離婚を強要され、一人息子とも引き離されたため、ミツカン一族を訴えて敗訴。

創業一家には娘が二人がいて、現在は長女が社長、次女が副社長です。姉妹の婿取りは会社にとっての一大事であり、幹部が中心となってプロジェクトチームが結成されました。

次女の副社長の婿として選ばれた男性は、外資系金融機関勤務。上司が創業一家の資産運用を担当したことをきっかけに婿候補に。一家や番頭格の社員を交えての食事会を終え「一次面接にパス」という連絡を受け、交際は順調に発展して盛大な結婚式を挙げました。

雲行きが怪しくなったのは長男誕生後。生後4日目に義父との「養子縁組届」の署名を求められたお婿さんは、書類上のこととはいえ我が子が息子ではなくなってしまうことに戸惑い、すぐに署名しませんでした。義父は激怒して「謙虚の意味を言ってみろ」とiPadを渡され、謙虚と検索し、辞書の内容をその場で読み上げさせられます。現代風婿いびりです。

その後、お婿さんは創業一族から追放。頼りの妻は「離婚しないなら財産は一切、相続させない」と親に言われて実家側に付きました。一族のためにと育てられ、結婚もお膳立てされたのだから、実家を捨てることはできなかったのでしょう。

お婿さんは外資系金融機関で働いていたのですから、かなりのエリートでしょう。娘婿としてミツカンに入ることで、ビジネスの手腕を大いに発揮できると考えたのかも。しかし「一次面接にパス」なんて言われた時点で、婿は後継者作りの道具にすぎないと気づくべきでした。まさに「小糠三合あったら婿に行くな」。

 

地天泰五爻は、帝が妹を優秀な臣下に嫁がせるという爻辞。商売をやっている家の跡取り娘は、下の地位から婿を取ったほうがいいと仁田丸久『周易裏街道』で解説されています。

うちの娘によく気のきいた番頭どんを養子に入れて、うちをこのままにやってゆこうというのです。ところがふつうはこれをやらないで、他のかなりの家柄のところから養子を迎えるのです。<中略>

商売上はよいとわかっていても、娘にしてみれば、ことに高等教育などを受けていると自分の家で使っている小僧上がりの番頭どんとはどうもおかしくて一緒になる気にはなれないし、親も見栄が出てきて、それ相応の家と縁組することが多いのです。

ミツカン一族も、生え抜きの社員から婿を選んでいれば、こんなことにならなかったでしょう。

仁田丸久氏は、成功例として大阪の道修町の薬屋の話を紹介しています。

今でこそ立派な製薬メーカーとして近代経営を誇っていますが、明治時代に大きくなったのは阿片の密売をやっていたため。当局にバレそうになった時に、すべての罪をかぶったのが家の娘と結婚した番頭でした。「お前に娘をやるけれど、その代わり、いよいよの時は一家の罪をかぶってくれよ」ということで、一家の安泰を狙ったのです。これほどの覚悟がないと名家への婿入りはできません。

ミツカンのお婿さんも不運ですが、お嬢さまも気の毒です。何不自由なく育つのはいいけれど、自分の結婚が会社のプロジェクトとなるなんて。いくらお金があっても、自分で選択できない人生は虚しいものでしょう。その一方で、経済的理由から進学できず将来の可能性を狭めてしまう人もいて、人生はカンタン酢のようにお手軽なものではないようです。

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