お正月の箱根駅伝は、青山学院大学が2年連続で8度目の優勝。
インタビューで原監督が「メソッド対決」という言葉を使っていました。根性に頼らず、選手の特性に合わせた最も効果的な強化策を編み出し、箱根路の各区も徹底的に分析しているのでしょう。出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝で「大学三大駅伝」と呼ばれますが、世間の注目が最も高いのは箱根。お正月の風物詩としてすっかり定着しており、箱根では絶対に優勝するという青山学院大学の気迫を感じました。
日本陸上界の超有名人となった原監督ですが、箱根駅伝は走ったことがなく、青山学院大学の卒業生でもありません。陸上競技を引退して中国電力のサラリーマンとして働いていたところ、高校時代の後輩に推薦され、青山学院大学の陸上部監督に就任。奥さんは猛反対しましたが、結局夫婦で寮に住み込むことになりました。
本人の資質と努力もありますが、大きな幸運に恵まれた人生のように見えます。たった一つ、クレディ・スイスの債権の購入を除いては。
報道によると、原監督は証券会社に言われるまま、安全な投資と信じてサラリーマンの年収の数年分を投じました。老後に奥様と旅行に行く資金にするはずが、債券は紙切れとなってしまいました。
原監督は「ローリスク・ローリターンの投資だと思った」と取材に答えていましたが、クレディ・スイスのAT1債の利率は9%以上。少しでも投資に頭を突っ込んでいる者なら、ここで怪しいと思わないほうがおかしい。そもそも、ローリスクの投資をしたいのなら、オールカントリーやS&P500のインデックス投資にしておけばよかったのに。原監督の頭の中は駅伝でいっぱいで、投資の知識なんて入る隙がなかったのでしょう。
クレディ・スイスの債権が紙切れになったのは2023年4月。その後も箱根駅伝で優勝を続けているのですから、原監督にはそれほどのダメージではなく、むしろこういうところで失敗しておいたほうが良かったのかもしれません。
なぜなら、恋も仕事もお金も健康もすべてうまくいくのは、めったにないことだから。原監督のように世間の注目を浴びる大仕事に関わっている場合は特に。絶対に負けず、勝ち続けるギャンブラーはいません。時に負けることがあっても、ここ一番の大勝負で必ず勝つのが名人です。それに、もし原監督が投資で莫大な利益を出していたら「練習中も選手に集中せずに相場チェックしていんじゃないか」と世間の目は冷たくなるし、箱根で優勝するというモチベーションを高く保つのはむずかしかったでしょう。
原監督と対照的に投資の世界に生きる私は、投資で得た利益の分、失っている運があります。ライター止まりで作家にはなれなかったし、田舎の保守的な層からは子供を産んでいない女は致命的な不運と見られるでしょう。突出した部分もあれば欠落もあって、吉凶の帳尻が合うわけで、すべてを欲張ると苦しくなるだけです。