キャシー・ホームズ『人生が充実する時間のつかい方』に、こんなエピソードが出てきます。

太陽が輝き、鳥がさえずるカリフォルニアの朝。4歳の息子を保育園に徒歩で送迎する母親。息子はスキップしながら笑い声をあげて母の後を歩いています。その日の最初の会議の時間が迫っている母親は後ろを振り向いて「お願いだから急いで」と叫びます。でも息子は立ち止まって「でもママ、見て!」と歩道の脇に咲いている白バラの茂みにに顔を突っ込んでいます。

頭のなかでその日のやることリストを何度も確認し、午後に息子を迎えにいくまでにすべてを片付けるなんてとてもできないとパニックになりかかっていた母親は「立ち止まってバラの香りを楽しんでいる余裕なんてないの!」

自分の口から飛び出したこの言葉を聞いて、ぞっとして恥ずかしいと思う母親がこの本の著者、キャシー・ホームズ。時間と幸せの専門家としてUCLAで講座を持っているのです。

 

カリフォルニアに転居してきた当初は理想の仕事と気候で有頂天だったのが、何か月かたつとすっかり当たり前に。人間は同じものに繰り返し触れると順応して情緒的なインパクトが下がってしまうのです。昇給して幸せを感じますが、4年後に幸福度は基準値に持ってしまうという研究結果もあります。

為替の変動にも似たような面があります。一昔前は1ドルが120円とか130円で円安と呼ばれていたのに、今では140円でも円高だと報じられます。

昨年、NISAで投資を始めた人のうち、8月の日本市場暴落でやめた人がかなりいるそうです。年初から好調に推移して「投資は利益が出るもの」と思い込むようになり、少しの含み損にも耐えられなくなったからでしょう。

人類は適応力があったから、ここまで歴史を築いてきたわけですが、適応し過ぎて幸せに慣れて無感動になったり、少しの衝撃で過度に悲観的にならないように、幸せの基準値を上げないように心がけたいものです。

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事