易を学び始めた頃、毎朝の日筮を勧められました。出た卦は今日はどんな日になるか、どう過ごすべきかの指針となりますが、始めた頃はそこまで到達できず、出た数字を八卦に置き換えて六十四卦を出す練習レベルでした。

何度も繰り返しているうちに数字と八卦、六十四卦の名称が頭に入るはずだったのですが、よく出る卦とまったく出ない卦があり、かなり偏りました。杏子さんもよく書いていますが、人によって卦との相性があるようです。

どうしたら万遍なく六十四卦が学べるかと考えて思い出したのが、野口靖充氏という易者です。出典はこの本。

野口氏は重病で死にそうになり、神様に願をかけました。「病気が治ったら、人のためになることをしますから、どうか命だけは助けてください」と。命はとりとめたものの、起き上がることができません。寝たきりで人のためにできることとしてひらめいたのが易占です。

寝たきりなので、お客さんごとに筮竹で卦を出すのが大変です。そこで、朝一番のお客さんだけ卦を出して、震為雷(しんいらい)の初爻が出たら、二人目は二爻、三人目は三爻と続きます。六十四卦には順番があるので、七人目は震為雷の次の艮為山(ごんいざん)の初爻から始めます。

 なんとまあ機械的な答えの出し方で、そんなんで当たるのかしら? という疑問を抱く方が多いことと思うが、よく当たると評判になって、ついには順番待ちのお客さん相手の屋台迄出た、という話が実際あるのである。

この話からうかがえることは、当てようと思ったところで当たるものではなく、当てさせてくれる或る「聖なる存在」を仮定しなくてはいけないということである。

この話にヒントを得て、日筮は乾為天から始まり火水未済に終わる序卦伝の順序に従うことにしました。これなら卦の偏りもありません。64日で一巡するはずですが、旅行とか二日酔いでさぼる日もあってちょっとずれたりします。

初心者には親しみにくい六十四卦ですが、序卦伝の物語には大いに心惹かれました。

乾為天(けんいてん)の父と坤為地(こんいち)の母が交わって、最初の子供を授かりますが、産みの苦しみが水雷屯(すいらいちゅん)。子供が生まれたら教育しなくてはいけないので山水蒙(さんすいもう)。

若い男女が恋に落ちるのが沢山咸(たくざんかん)。結婚して倦怠期になれば雷風恒(らいふうこう)。そこから逃げたいから天山遯(てんざんとん)。

私に最も影響を与えたのは、損して得取れの山沢損(さんたくそん)から風雷益(ふうらいえき)への流れ。世の中は陰陽の循環で成り立っているから、自分だけ得をしようとせず、まず損をすること。そして、利益が出たら沢天夬(たくてんかい)。お金をただ寝かせておくのではなく、決断しなくてはいけない。

雷火豊(らいかほう)から火山旅(かざんりょ)への流れも好きです。お金ができて大きな家を建てるのもいいけれど、それより旅に出たい。旅先では柔軟にその地の風習に合わせるべきだから巽為風(そんいふう)。そうすると大きな楽しみ兌為沢(だいたく)がもたらされます。

こうして六十四卦を順繰りに巡っていると、何度も転生しているような気分になります。

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