冬至の年筮は、一年のうち易者が最も緊張する瞬間です。

易は怖いぐらいぴたりと当たることもあれば、ピンと来ないこともあり、まさに「当たるも八卦」なんですが、易の先生には「出た卦はすべて正しい。当たらないと感じるのは自分の解釈がまちがっているから。出た卦を記録して、なぜ当たらなかったかを考え続けなさい」と教わりました。その点では、年筮は格好の教材です。真剣に立てて、一年をかけて検証していくのですから。

 

仁田丸久(にたまるく)氏は昭和30~40年代にかけて易の講座を開いていた人物です。本業は神戸の貿易商で、実家が神戸の私はとても身近に感じます。

『うらおもて周易作法』に登場する岡本氏は、船長で下戸。これは私の父と同じです(下戸の父から酒癖の悪い娘が生まれたのはなぜ?)。

岡本氏は将棋や碁、花札、トランプなど相手を必要とする娯楽も一切やりません。これは船員にとってはかなり珍しいことです。外国航路では勤務時間以外を船内でどうやり過ごすかが大きな問題だからです。

は他の船員が酒や娯楽に興じている中、岡本氏は小さな船型を作って操縦、扱い方を常に研究。狭い水道や狭い港への出入り、潮流の変化、風圧の影響まで考えていました。そのおかげで濃霧や豪雨で周囲が全然見えない場合も無事に航行できたそうです。

「寝ていても機関の音の調子が変化すると目が覚めるし、船の後部の甲板に波浪が上がると寝ている私の足先が冷たく感じるぐらい」に船と一体化。英語では無生物には代名詞itを使いますが、船はsheです。岡本氏にとって船は生きており、悪天候の出航では「お前大丈夫か」と声をかけ、下船するときは生きた人間と別れるように感じたそうです。

仁田丸久氏はこの話に感銘を受け「船を生き物と感じたのと同じように自分の易を生き物と感じられるかどうか」と考え、「自分の立てた易は生物なり」と語っています。

冬至から一年間、年筮はあなたと一緒に生きています。生物ですから、ずっと同じではなく、陰陽が変じて卦自体の姿を変わりつつ、一年間寄り添ってくれる友人のようなもの。そう思って、今年の年筮に向き合いましょう。

 

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