先月の阿佐ヶ谷七夕ウラナイまつりで、しらふさんとあざらしさんが会って、占い界隈での通称で呼び合うのがおもしろかったそうです。普段の生活とはまったく違う名前を使う体験はとても新鮮です。名前の力は巨大。「本当の名前を知られたら命を奪われる」という昔話があるのもうなづけます。

『統合失調症の一族』にも名前の力が出てきます。

https://bob0524.hatenablog.com/entry/2024/07/15/104821

兄10人、姉1人の下に生まれた末っ子のメアリーの境遇。

兄たちが互いに凄まじい暴力を振るい、10代のうちから薬物やアルコールを搾取し、放火や窃盗までやらかす。そのうえ、彼らのうち6人が統合失調症を発症するなど、精神に異常を来し、警察や病院のお世話になり、手一杯の親からはかまってもらえず、すぐ上のいちばん親しい姉は他人の家に預けられ、自分は取り残され、幼いころから兄の何人かに性的虐待さえを受けていた。

こんな状況を生き延びるだけでもむずかしいのに、トラウマを乗り越えて自分の家庭を築き、親や兄のケアまでします。しかも、自らの物語が他社の助けとなりうると信じて、書き手を探して実名をすべてを明かしてこの本を刊行したというのです。

姉のマーガレットが優しくて共感的で情にもろいのに対し、メアリーは実際的で抜け目ない性格。小学校1年にして、クラスの模擬大統領選挙でリチャード・ニクソンを選ばずジョージ・マクガヴァンを支持して一人だけ手を挙げる強さを持っています。

地獄のような家を出るために、奨学金を得て寄宿舎のある私立学校に進学。「メアリー・ギャルヴィン」という名前の学生がすでにいたため、教師からミドルネームを聞かれたメアリーはとっさに別の名前「リンジー」を思いつきます。母方の曽祖父のミドルネームで、博学で一族の名士。精神疾患の遺伝子のある一族でも、立派な人も出ているのです。それまでの13年間に自分に起こったことを消し去るような新しい名前となりました。

その後、リンジーは大学でマーケティングの学位を取得し、イベント開催の仕事に従事し自らの会社を設立。結婚して、二人の子供にも恵まれます。

『統合症の一族』は読み進めるのがつらくなる本ですが、リンジーの生き方に救われました。親につけてもらった名前を捨て、新たな名前を選ぶという行為がその後の人生を象徴しています。

 

柚木麻子『本屋さんのダイアナ』にも名前を変える話が出てきます。大穴(ダイアナ)と名付けられた少女が家庭裁判所に「名の変更許可申立書」を出そうとします。幸田文を愛読していたこともあり、文子(あやこ)という名前を考えます。

 自分で自分に名前をつける。こんな経験、ほとんどの人間がしないままで人生を終えるだろう。考えに考え抜いたおかげで、今後どう生きていきたいかという将来の目標とも真っ向から向き合うことができた。そう、名前とは、人生の道しるべになるのだ。

 

ウラナイ8関係者は、占い師名を名乗っているので本名を知らない人がほとんどです。本名とは異なる名前を名乗るのは、新たな人生を切り開くこと。8月の阿佐ヶ谷七夕ウラナイまつりに続いて、来月にもイベントを企画中。占い師名で呼び合う時間を楽しみましょう。

 

 

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