占いのロジックを極めたとしても、未来を完全に予測することはできません。「だまって座ればぴたりと当たる」のが占いの名人だと言われますが、当てもの以外にも、占いの役割はあります。

今月のカレンダーを見ていると7月24日はスポーツの日で、東京オリンピックが開催されるはずでした。こんなことになると予測した占い師はいるのでしょうか。未来予知はできなくても、隠されている幸運に光を当てるのも占いの醍醐味です。

英語でセレンディピティ(serendipity)。

探していたものとは違うものが手に入り、結果的にそっちのほうがよかったなど、予期しない幸運に恵まれる現象で、セイロン(スリランカ)の王子が登場する童話に出てきた造語です。

ポスト・イットを使うたびに、この言葉を思い出します。

1968年、3Mの研究者のスペンサー・シルバーは、強力な接着剤を開発していました。ところができあがったのは、「よくつくけれど、すぐにはがれてしまう」接着剤。失敗作として廃棄されるはずでしたが、シルバーは直感的に何かに使えると考えました。そこで社内を回ってこの接着剤の用途はないか意見を求めたのです。

それから6年後の1974年のある日曜日、教会の聖歌隊に属していた別の研究員、アート・フライが、賛美歌集を開いたところ、しおりがぱらりと落ちました。「これにあの接着剤を使えばいい!」とひらめき、「のりつきのしおり」「のりつきのメモ」の開発に着手します。

 

こんなことが可能になったのは、3Mの自由な社風のおかげ。執務時間の15%を自分の好きな研究に使ってもいいことになっているのです。「ブートレッギング(密造酒)」という不文律もあり、上司の許可を得なくても自分の信じる研究のために会社の設備を使ってもいいのです。

 

苦労を重ねて試作品は完成したものの、マーケティング部門から待ったがかかりました。今でこそ当たり前のようにポストイットを使っていますが、当時の人々はまったくない製品の必要性を感じなかったのです。

フライは試作品を社内の秘書たちに配って実際に使ってもらうことで体験してもらうことにより、製品化にこぎつけました。

アメリカの4大都市でテスト販売が実施されたのは1977年。当初は苦戦し、販売中止の危機となりますが、マーケティング部が全米売上譲位500社の秘書にサンプルを送ったことで、注文が殺到。1980年に全米での販売が決定されました。

こんなに便利なポストイットが世に出るまでに、ここまでの紆余曲折があったとは!

偶然がもたらした幸運をしっかり定着させるには、地道な積み重ねも必要です。そして、前提条件として「期待していたものとは違うけれど、これはこれでいい」とセレンディピティを受け入れる柔軟性を持たなくてはいけません。

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