易の本がいつ終わるかわからなかったので、4月は旅の予定を入れていませんでした。上旬には書き終えたので、近場の旅を計画。青梅に行って御岳山に登ったり、山梨のラドン温泉で湯治のまねごと。日帰りできる距離でも泊まってみるとけっこう楽しいものです。

とはいえ3月のお彼岸には4泊5日で熊野古道まで行ったし、旅ばかりしています。自己正当化のために読んだのが、『旅の効用 人はなぜ移動するのか』。著者はスウェーデンのジャーナリストで、インドを中心に世界各地をバックパッカー、ヒッチハイカーとしてバスや列車で旅をしています。

帯の惹句で、絶対読まなくちゃと思いました。

不機嫌をいう病いを治すにはまず、自分の安全領域から外に飛び出すことだ。そうすればすべてをコントロールしなくても日々がうまく運んでいくと気づくこともある。いったん異文化の中に身を置けば、足が地に付かなくなっても「すべてうまく行くだろう」と信じることができる。

「安全領域」は「コンフォート・ゾーン」でしょう。快適だけど退屈で、ずっといるとじりじりとした焦燥感が湧いてきます。ストレスのある仕事から引退し、好きなように暮らしているのに、わざわざ旅に出るのはこのためです。

「旅に出て未知のものと相対すると、不安になり心が混乱するけれど、何とかなる。そして一つの問題にも解決法が何種類かあることを知って心が落ち着くようになる」と著者は解説しています。

旅に出て、新たな見方を手に入れるわけですが、これは占いにも通じます。易の卦やカードを見て、言葉を紡ぐためにはさまざまな見方をする必要があります。占い本に書いてある六十四卦の爻辞やカードの解説を読むだけなら、AIのほうがずっとうまく占えます。占的と出た卦やカードの遭遇は、旅先での未知の体験のようなもの。それが何を意味するのかを読み解くには、新たな見方が必要なのです。

新たな見方をするようになれば、新たな展望が開ける。(中略)今まで無関心だったことにも、不意に何かを感じるようになるのだ。今まで見えていなかったことが不意に見えてくるのである。

 

だからといってすべての占い師は旅をするべきだというわけではありません。怠惰で思い込みの激しい私は、無理やりでも旅に出て全身で体験する必要がありますが、日常の中で新たな視点を日々見つけている人も多いでしょう。

 

仁田丸久『周易裏街道』、定方昭夫『易 心理学入門』には野口靖充氏という易者が登場します(この土曜日のデイリーメッセージでも一度紹介しています)。

野口氏は重病で命を失いそうになり、神様に「病気が治ったら人のためになることをしますから、命だけは助けてください」と願をかけました。死なないで済んだものの、寝たきりに。筮竹を使って易を立てるのも一苦労という不自由な体です。そこで野口氏が採用したのは、六十四卦の順に従って占う方式です。卦を立てるのは朝一回だけ。最初に出たのが山水蒙の二爻なら、次のお客さんは三爻、その次は四爻と進めていき、5番目のお客さんは山水蒙の次の卦の天水訟の初爻となります。

これがよく当って「寝釈迦」と評判になり、順番待ちのお客さんが列を成すほどだったそうです。

野口氏の場合は死線をさまようような大病が新たな視点(占い方)を手に入れる契機となったわけで、普通の易者が真似をして同じことをやっても当たらないでしょう。

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