映画「ラストワルツ」でザ・バンドのロビー・ロバートソンは、マーティン・スコセッシ監督に「音楽がどこにでも連れて行ってくれた」と語っています。

10代で故郷のトロントを離れてギターを抱えてアメリカ南部に向かい、後にボブ・ディランのバックバンドとなって世界を回ります。ツアー先のパリで出会ったフランス系カナダ人女性と結婚し、ウッドストックで家庭を築き、カリフォルニアで音楽プロデューサーに。まさに、音楽によって開けた人生です。

そして、音楽ではなく本によって世界を広げたのが、G・ガルシア=マルケス。

高校進学のためコロンビアの首都ボゴタに向かっている船上で、テーブルに何冊もの本を塔のように積み上げ、朝から夜まで本を読む続けている乗客と出会います。

乗り継いだ列車でも再会し、ガルシア・マルケスが船内で歌っていたボレロの歌詞を教えてほしいと頼まれます。ボゴタで3カ月ぶりに再会する恋人に歌うためです。

手に入れるのがむずかしいドストエフスキーの本を読書家が持っていたので、貸してほしいという下心から本を話題にすると、まだまだ読み終わっていないとのこと。船から乗り換えた列車で再会し、ボコダの停車場で「楽しんで!」とドストエフスキーの本を手渡してそのまま雑踏の中に消えました。

これだけでも心温まるエピソードですが、続きがあります。

全国奨学生の応募のために教育省に向かったガルシア・マルケス。受付の部屋がある4階から階段、建物の入口、さらに大通りの2ブロック先まで行列が伸びているのを見て、このような激しい競争では奨学金などもらえるはずがないと思いつつ列に並びました。

列の最後尾にいた彼の肩を叩いたのは、ドストエフスキーの本をくれた読書家。教育省の全国奨学金課長のアドルフォ・ゴメス・タマラ博士でした。

「私にとっては生涯でもっとも幸運な偶然のひとつ」とガルシア・マルケスは記しています。といっても、奨学生試験を合格させてくれるわけではなく、手続きをすぐに済ませてくれただけで「これから先の命運は君の手の中にある」と熱意をこめて握手しました。そして、実力で合格したガルシア・マルケスにボゴタ市内の学校は有力者のコネで埋まっていても無理だけど、列車で1時間先の高校を紹介してくれました。

 

こうした偶然の出会いの結果、コロンビアにノーベル文学賞をもたらすマジックリアリズムの旗手が誕生し、日本に住む私がコロンビア行きを熱望するようになりました。杏子さんのTAZIN先生のインタビュー記事で、ボルヘスがお好きだと知りましたが、マジックリアリズムと占いは相性がいいのです。

ウラナイ8ブッククラブも、本や人との偶然の出会いからマジックが生まれる場所になることを期待しています。

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