夜に深酒をしないためにも、なるべく本を読むようにしています。アルコール依存症になると社会不適合ですが、活字中毒はそう嫌われません。

翻訳書が好きですが、日本人作家はやはり読みやすい。原田ひ香の小説もするする読めて、人気なのもよくわかります。

原田ひ香は、30歳の時に夫の転勤にともなって帯広に転居しました。温泉とサウナ好きなら帯広は最高の街ですが、それまで一度も帯広に行ったことがなかったという彼女は、かなり心細かったのではないでしょうか。しかも転居の時期は11月で、暗くて極寒の日々。新婚家庭なら毎日の家事もそんなに時間はかからないでしょう。そこで通い始めたのが小さな図書館。訪れる人もあまりなく、読みたい本がすぐに手に取れます。

いつものように図書館で本を読んでいると、見知らぬおじいさんに話しかけられました。

「横山秀夫って知ってる? めちゃくちゃおもしろいよ。新聞記者だったから、めちゃくちゃおもしろいんだよ」

かなり年上の男性が見ず知らずの若い女性にいきなり声をかける。昨今はかなり問題視される行動でしょう。しかし、おじいさんは多様性理解のために年の離れた女性と友達になろうとしたのではなく、それだけ告げてふらっとどこかに行ってしまいました。図書館の新たな常連に自分が知っている面白い作家を教えてあげたくなったのでしょう。

原田ひ香はせっかく教えてもらったのだからと横山秀夫を読み始め、おじいさんの言う通りめちゃくちゃおもしろくて、ますます読書にのめり込みました。そのうち思い立って自分も物語を書き始めるようになったのです。ある程度までインプットできたから、次はアウトプットに転換できたのでしょうか。おじいさんのことを「図書館の妖精みたいだった」と回想していますが、ベストセラー作家が生まれたきっかけは、帯広の読書好きのおじいさんの一言だったのです。

 

シンデレラの「フェアリー・ゴッドマザー」を連想しました。インナーチャイルドカードでは、若い魔女に描かれていますが、ゴッドマザーは名付け親だし、日本では「魔法使いのおばあさん」と紹介されてきました。

変化の激しい世の中では、年寄りの助言なんて的外れのことがほとんど。ボブ・ディランは1960年代に「自分が理解できないことに口を挟むな(Don't criticize what you cannot understand)」と歌っていますし、上の世代が嫌われるのは説教、昔話、自慢話をするからだとよく言われます。だけど、たまに年寄りがつぶやいた一言が若い世代に役立つこともあるのです。そんな妖精のようなおばあさんになりたいものです。

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事