「移動格差」という言葉をよく目にします。英語では「モビリティ・ギャップ」。移動機会をめぐる不平等によって生じる格差を指します。先日、古い友人から「飛行機ってどうやって乗るんだっけ?」と質問されました。出張のない仕事で旅行が趣味でなければ、めったに飛行機に乗ることもないでしょう。
『移動する人はうまくいく』という本も売れていて、移動することによって視野が広がり選択肢が増えて豊かになると説いています。
まともな仕事もせずに旅ばかり続けている私からすると、順番が逆なんじゃないかと思います。移動すると定職に就くのがむずかしく固定収入が得られないし、交通費や宿泊費が生じます。ふらふらしているだけでは絶対にお金はたまりません。支出を気にせずに自由に使えるお金を手にしたからこそ移動できるのであって、移動するからといってお金持ちになるとは限らないのでは。世界一周した人がみんな社会的に成功して経済的に豊かになっているわけではないでしょう。
若い頃から貯金しては海外旅行に使っていた私は、日本という枠を嫌い変なり度胸もつきました。長期的に見て円は弱くなると予測し、ニューヨーク市場に打って出て成功したので「移動して豊かになった」と言えますが、誰にでもあてはまるパターンではありません。旅に出るより自宅を整えて快適に暮らしているお金持ちもたくさんいるはずです。
そして移動と一口に言っても、物理的な距離だけを指すのではないのでは。そう考えるようになったのは、熊野古道の宿での体験からです。猫女将のみゃあちゃんで有名な民宿です。
おととしのスペイン巡礼が成功したのはみゃあちゃんのおかげなので、お礼を言うために再訪しました。
宿のご主人は「ほんまにスペイン歩いたん? すごいやん、そんなん、よう行かへんわ。いつもここにいるだけや」と感心しきりでしたが、この宿は海外からの旅行者が多くいつも満室状態。
さまざまな国からやって来た旅行者に心を開いてほがらかに接している姿を見ていると、物理的に移動しなくても人生は豊かになると確信しました。長時間の移動を経て世界の果てまで行ったとしても、心を閉ざしたままでは変化は起きません。
















