現実の人生が行き詰ったり、思いがけない衝撃があった時、ショック療法的にナチスによるユダヤ人迫害の本に手が伸びます。

フランクルの『夜と霧』は掲載されている写真がショッキングで本を開くのに躊躇します。比較的読みやすいのが、アンネ・フランクの一家の隠れ家生活を支えたミープ・ヒースの回想記『思い出のアンネ・フランク』。

ミープはオランダ人ではなく、ウィーン生まれのオーストリア人。第一次大戦後の食料不足で死にそうになり、食料事情のいいオランダに養女に出され、そのままオランダに定住しました。

フランク一家に自らの子供時代を重ねたのか、献身的に一家を支えます。アンネの父が経営する食品会社の事務員で、恩義も感じていたのでしょう。

隠れ家生活に入る前、一家は人数分の配給切符を手に入れていましたが、戦況が悪化するにつれてオランダでも食料不足に。自分たちが生きるための食料に加え、隠れ家の人々の文まで調達するのは大変な苦労だったでしょう。

そんな苦境の中、ミープが行きつけの八百屋さんはいつも黙ってじゃがいもを多めに袋に入れてくれました。ドイツ占領下でユダヤ人をかくまっていることがばれたら厳罰に処されます。だから余計なことは口にせず、多めに野菜を回すことでミープを支援したのです。

収容所送りになったアンネのその後の運命は想像するしかありませんが、収容所から生還した女性の回想記が『レナの約束』。

収容所の近隣に元から住んでいたポーランド人は、収容所で何が行われているかうすうすわかっていましたが、占領下の国民としては口を閉ざすしかありません。

農夫の一人は出荷するキャベツを馬車に積み込み、収容所の脇道を通ります。タイミングを見計らって、馬車を止めてわざとキャベツが荷台から転がり落ちるようにします。飢餓状態にあるレナがみずみずしいキャベツをかじると、ビタミンやミネラルが体の隅々まで行き渡るのを感じたと書かれています。

 

歴史のスポットライトが当たるのは、勇敢に巨悪に立ち向かったり、自己犠牲の精神を発揮した人たち。

そういう英雄的行為ができる人は限られています。だからといって何もしないのではなく、自分のできる範囲のささやかな善行があるのではないでしょうか。

腹黒い私は、善行を積むのも自分の運を上げるためですが、下心があってもしないよりしたほうがましと割り切っています。

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