ガルシア=マルケスの『コレラの時代の愛』の主人公のフロレンティーノ・アリーサの叔父は、海運会社の社長。オペラやセレナーデを愛好する一方で、創造的な才能と不屈の起業家精神の持ち主で河川運輸業界の大物にのし上がっていきます。

莫大な資産を築いたのに小さな家に住み、暮らしぶりは質素。大金持ちのあなたがどうしてこんな暮らしをしているんです、と尋ねられるとこう答えました。

「わたしは金持ちじゃない。金のある貧乏人なんだが、この二つはまったく別物だよ」

パブロ・ピカソの名言” I'd like to live like a poor man with lots of money. 大金を持った貧乏人のように暮らしたい”を思い出しました。

私が目指しているのもこのスタイルです。飛行時間が短くなるわけでもないのにファーストやビジネスクラスに乗る人の気が知れません。そんなお金があったら新しい場所へ旅する資金にします。一番好きなホテルチェーンはドーミーイン。高級温泉宿の夕食は量が多すぎて食後に入浴できなくなるから、質素な湯治宿が好みです。

 

友人のいる島根を定期的に訪れるようになり、温泉津(ゆのつ)という海沿いにある温泉のゲストハウスによく泊まりますが、出雲到着が遅めの便の時は空港から近い玉造温泉に泊まります。

気に入っているのが、「翠鳩(あおばと)の巣」というゲストハウス。休業していた旅館をリノベーションした宿で、「あおばと」とは黄色やオリーブ色をして海水や温泉を飲む不思議な鳩。いつでも巣箱に戻る鳩のように旅人を迎えたいという気持ちをこめたネーミングです。夕食は付かず飲食の持ち込み自由。朝食を希望すると熱々のしじみ汁付きの和食が出ます。旅館時代は食堂だった場所は朝食会場であり、コワーキングスペースになっています。そして、大旅館に引けを取らない力強いお湯の浴場。私が温泉宿に求めるものすべてが揃っています。

 

出雲空港から玉造温泉へは時間が合えば直行バスが便利。どのバス停で降りたらいいか、運転手さんが泊まる旅館を聞いてきます。玉造温泉は島根県屈指の温泉ですから高級な宿ばかり。その中で「あおばとの…」と言いかけると運転手さんが「ああ、ゲストハウスの!」とバス中に響くような大声で言うのでちょっと恥ずかしくなりました。

いい年をして節約旅行をしている思われないように、向かいか隣の宿の名前を言えばよかった。いや、「金のある貧乏人」として堂々としなくては! そもそもお金がなかったら青春18切符や長距離バス移動では。でもJALのバーゲンの格安チケットだし…と心が乱れまだまだ旅の修業が足らないと痛感しました。

 

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