易のおもしろくてむずかしいところは、解釈の仕方によってまったく逆の読み方になるところです。たとえば、最もおめでたい卦とされる地天泰が出たから吉とストレートに読むことができません。この卦は吉、この卦は凶と固定した読み方をするのなら、おみくじと同じになってしまいます。

 

本田濟が平成4年から6年かけて政財界人に向けて伊川易伝を講義した記録が『易経講座』として出版されています。

著書ではなく講義録なので生の声が伝わってくるようでとても興味深いのですが、地山謙の説明で笑ってしまいました。

大阪市立大学の市民大学講座で易の概説をやって、聴衆に「誰かやってみませんか。見てあげます」と言ったら、一番前に座っていたおじいさんが「見てくれ」と言うので、立てた卦を見たら、地山謙(ちさんけん)の二爻。

「あなたはよほど謙遜なお人柄ですね」と言ったら、後でその講座の世話人が「先生、あれは違います。あのおじいさん、一番厚かましい。いつでも、手を挙げる。もっと謙遜にせよという判断ですよ」と言っておりました(笑)

地山謙は、すべての爻に悪いことが一切書いていなくて、六十四卦の中で最も好ましい卦です。二爻は謙遜の美徳が満ち満ちておのずから外に現れ出るという爻辞です。存在感を発揮したくてしかたがないおじいさんに地山謙を出すとは、易神はなかなかの皮肉屋です。

平日の昼間、スポーツクラブのダンスレッスンで、おじいさんの厚かましさに閉口しています。女性メンバーでは暗黙の了解として、前列で踊るのは上手な人。自信がない人は目立たないスタジオの後方か端っこに位置取りします。しかし、数か月前から厚かましいおじいさんが来るようになり、一番目立つ位置でテンポのずれたへたくそな踊りを堂々と披露しています。おじいさんが視界に入ると自分のステップもおかしくなりそうなので、位置取りに苦労しています。

こういういじわるな視線を持つ私に出るとしたら、坤為地(こんいち)でしょうか。すべてが陰の卦である坤為地は、起こることすべてを大らかに受け入れます。へたくそなおじいさんが踊っていても別に私に危害を加えるわけでなし「そういう人もいる」と淡々と受け流せばいいのです。

出た卦をストレートに読んで納得できればそれでいいし、「この占的でなぜこれ?」と思うような意外な卦が出たら「易神はどんな皮肉を言っているのだろう」と想像してみると新しい視点が手に入ります。

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