生前契約して死後事務を「りすシステム」に託そうと決めたのは、説明会で納得できることが多かったからです。

中でも大きかったのは、死後を託せる身内がいないのは不幸で恥ずかしいことだという思い込みが解けたこと。りすシステムの担当者の説明によると、身内がだれもいないほうが死後事務はスムーズに進むそうです。昔と違って、家族だから何でも任せられるという時代ではありません。子供がいても遠くに住んでいて疎遠だったり、親と仲たがいしている場合、やりにくいことが多いとのこと。たとえば親は子どもをあてにせずに死後事務を委託していても、子供はその費用が惜しくて契約解消を申し出たりするのでしょう。

 

そこで思い出したのがアメリカ映画の『八月の鯨』。

鯨の見える小さな島に暮らす二人の老姉妹。リリアン・ギッシュとベティ・デイビスが演じます。妹は夫を若くして亡くし、ずっとシングルで暮らしてきました。結婚記念に夫の写真の前に花を飾り、語りかけながらワインを傾けるシーンは胸を打ちます。一方の姉は、訪ねて来てこない子供たちに不満を抱いて孤独感を募らせ、どんどん頑固になっていきます。

 

私自身、親の介護が必要になってからしぶしぶ実家通いを始めましたが、親が元気なうちは疎遠にしていました。結婚はしたものの子供を持たない娘は親にとっても積極的に会いたくないだろうと思い込んでいたのですが、母を亡くした今となっては、もう少し交流していてもよかったんじゃないかと後悔しています。

 

ともかく、りすシステムが死後事務を託す人がいない寄る辺のない高齢者に同情しているのではなくビジネスとして淡々と進めている姿勢が気に入りました。ボランティアではありませんから、当然、費用はかかります。とりあえず、申込金が5万円。申込んだ時点からシステム維持費が月に500円かかります。説明は聞いたけれど、まだ早いと思った人は、その気になった時に申込めばいいというスタンスです。

私はすぐに申込みました。先延ばししがちな性格だし、せっかく説明会に出たのに申込まないうちに死んでしまったら目も当てられないと思ったから。

古代ギリシャの詩人、エウリピデスの名言。

No one can confidently say that he will still be living tommorrow.(明日も生きていると自信を持って言える者などいない)

 

さて、申込みはさっさと済ませたものの、次のステップに進むには3カ月ほど時間がかかりました。自立して暮らせなくなったらどうしたいか、病名や余命の告知を受けたいか、延命治療をどうするか、そして死後の葬儀やお墓、家の片付け。すべてを文書にしないといけません。保険、年金、公共料金、銀行や証券会社の口座、クレジットカード、各種会員のリストを書き出すのも一苦労。

終活じゃなくても、各種のリストは作っておくことをお勧めします。私は銀行口座は絞り込んでいますが、クレジットカードが7枚。ポイント目当てで増やしてしまいましたが、整理するきっかけになりました。りすシステムでは「生きていることを楽しむための生前事務」と説明を受けましたが、生活全般を見直してすっきり暮らすためにも役に立ちます。

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