
業業カフェでは、ウラナイ8の偏愛部部長(?)深瀬まるが、「好き」をライフワーク&ライスワークにしている人に、様々な角度からインタビューしていきます(不定期連載)。第二回のゲストはBLラブのC子さんです。《注意》今回は長いので、お時間ある時にどうぞ。
【 偏愛と星の考察 】妄想を育てて愛でる、乙女のたしなみ C子さん
蠍座月の日、以前私が吉祥寺でカレー営業をやってた時、ホール担当してくれたC子さんに偏愛インタビューをしました。実はC子さん、小6の頃から筋金入りのBL(ボーイズ・ラブ)偏愛者なのです。今春お宅へ遊びに行った時、C子さんが「BL好き」とぽろっと打ち明けて、私はちょっと驚きました。でも、この企画にぴったりではないか。というわけで、この度深掘りさせていただきました。C子さんのプロフを簡単にご紹介しますと、アラフィフ既婚女性、現在は旦那様と犬二匹と山奥で謎の隠遁生活中(昔は二人ともブラックな広告畑で働く戦士でした)。
・インド占星術=獅子座ラグナ
◎今回の偏愛インタビュー内容は、あくまでも一個人の見解です。
ーー BLに出会ったきっかけは何だったんですか?
C子さん(以下、C子) 小6の頃、教員だった母親が会合にでかけた時に、なぜだかわかりませんが、気まぐれでよく漫画をお土産に買ってきてくれたんです。で、その漫画をぱらぱら見てたら、そこに竹宮恵子の「風と木の詩」があり、なんだこれは!?と稲妻のような衝撃を受けたのがきっかけです。(C子さん曰く、この作品が、BLジャンルに与えた影響は多大だったとのこと)
中学にかけて読んだ漫画雑誌は、週刊マーガレット、週刊少女フレンド、LaLa、アスカなど。この辺りは、アグレッシブに良い作品を出してたと記憶しています。あとこれはBLじゃないけど、有吉京子の「SWAN」というスポ根もののバレエ漫画にハマりました。他には、山岸凉子の「日出処の天子」とか。でも実は一番好きなのは「マカロニほうれん荘」でした(笑)。あ、これはギャグ漫画ですね。とにかく漫画もアニメも好きな雑食でした。
あと、中一の頃に創刊されたJUNE(禁断の愛がテーマのカルチャー誌)は、センセーショナルでしたね。偏った本でしたが、なぜか田舎にも売ってたので、毎号買うのを楽しみにしてました。
その一方で、りぼんやなかよしなどの健全でゆるふわ恋愛には興味なかったかな(笑)。私には、主人公が幼く可愛すぎに見えたし、それに加え、ドジっ子が告白して幸せになって行くプロセスに、全く魅力を感じませんでした。
ーー たしかに竹宮恵子さんや山岸凉子さんの漫画には、ドジっ子は出てきませんね。ところで、BLの楽しみ方はどんなふうでしたか?
C子 基本的には、BLのことは誰にも言わず、一人で密かに楽しむ世界でした。なぜなら、性的な内容が絡むから(※とはいえ、当時は性的な内容がかすかに香るくらいの奥ゆかしい表現だった)。だから家族には絶対バレたくない。普通の恋愛ではなく、なにせ読んでるのが少年愛なので。親からこの子おかしいんじゃ?と思われるのは、何としても避けたかったんです。(ちなみにC子さんは、中学時代に生徒会役員をしてたそうです)
あとそれから、悲劇的な結末に、ドキドキするところも好きでした。割とハッピーエンドにはなれない設定が多く、ワクワクするような希望を持てないので非常に切ないんですが、そこがまた良かったんです。
私にとってBLは、女子の密かな楽しみと共に、とっておきの現実逃避の場。「誰にも教えたくない、知られたくない」そんなマインドでした。
そんなスタンスだったので、好きな人同士で集まって秘密結社的な活動をしたいわけでもなく、しばらくは一人で楽しんでいました。でも、やがてクラスで気の合う女子にだけはBLの魅力を教えたくなってしまい、とうとう感染させてしまいました。そこからじわじわ仲間を作っていくようになりましたね(笑)。
ーー 優等生とは違う一面が暗躍してたんですね(笑)。今ではBLと言いますが、当時もBLと言ってたんですか?
C子 その頃は、BLと言わずに「少年愛」と言ってたと思います。ジャンルとしては「耽美」ですね。耽美とは≒(ニアイコール)「禁断の愛」です。こういう世界が自分の身近にあったら面白いな~と思って、耽美的な妄想もよくしてました。
そして、しばらくしてから「やおい」ジャンルへ移行しました。やおいとは、ジャンルとしての名称ですが、BL好きな女子の総称も兼ねてたと思います。
ーー やおい…聞いたことある。なんだろう?と思ってました。あれは、なんですか?
C子 や=ヤマなし お=オチなし い=意味なし
「やおい」とは、同人誌(二次創作)などで、ストーリーよりも、少年愛のベストなシチュエーションや美しいシーンのみを抽出して描くこと。それだけにうっとり満足する、清い世界なんです。だから、ヤマなし、オチなし、意味なしで、ぜんぜん構わない。
私が中学生時代は、著作権の扱いが今ほどきちんと整備されてなかったので、好きなアイドルやスポーツ選手を組み合わせてBLシーンを描いては、妄想して幸せに浸ってました。あるいは、趣味の合う女子たちと、クラスの男子を組み合わせては妄想して、クスクス楽しんだり……。
ーー 私の(単細胞な)中学時代とは別次元を生きてたんですね。(羨望の眼差し)
C子 小6~中学時代はBLにどっぷりハマりましたが、中3になったら「いつまでもこんなことやってたらダメだ」と急に自己否定してしまって、そこからBLと距離を置くようになりました。で、高校からは、ロック雑誌にハマりました。
その後、大学、社会人となりましたが、BLとは無縁の生活をしてました。
ーー 同じ会社に勤めてた頃は(C子さんとは元同期)、黒ずくめに編み込みブーツみたいなファッションでしたよね。デビッドボウイとかマリリン・マンソンとかが好きだったような?(違う?) でもなんかどことなく耽美も香ってた気がします
C子 まぁ、おたくモードは相変わらず健在でしたけど、30代前半までは朝から晩までとにかく仕事ずくめでしたからね。
その後結婚し、30代半ばくらいになって少し落ち着いてきた時、ふとmixiをやり出したんですよ。あの頃mixiが流行ってたんでね。それでいろんな人とやり取りしてたら、某有名BL漫画家のメシスタントだった人と知り合って。彼女とめっちゃ話が盛り上がって、そこからまたマンガ愛が再燃しました。「私、そういえば好きだった。もう少し情報を集めてみようかな」ってなった。そして、ネットでゆるやかにBL情報を探索していきました。
ーー 約20年ぶりにBL界に戻ってみて、どうでした? ギャップはありましたか?
C子 35歳くらいで戻った時、BL界の凄まじい発展や拡がりが、マーケットとして成立してることに驚きました。
私が中学生だった頃のBL界は、切ない映画を見るようなストイックなノリでした。まだ趣味としての秘め事に留まっていました。最初にも言ったけど、ロマンや耽美の追求だけで満足するような楽しみ方でした。
ところが20年経て出戻ったら、作品数も激増してるし、レベルに関してはピンキリの印象でした。昔のような耽美で奥ゆかしい表現は全体の1~2割程度で、他は女性向けのエロ本と化してました。(これはあくまでも個人的な見解ですが)20年後のBL界は、非常に生々しく、露骨でどストレートな性描写に見えました。まったく秘めてない。目的がエロシーンというか、性のはけ口が主流のAV風BL漫画として発展してしまったように感じました。
ーー いつのまにかコミケも巨大化しましたもんね。一度行ってみたいですが、あまりにもカオスすぎて……
C子 一度、行ってみたらいいですよ。初めて行くと、たぶん全くわけがわからない。だけど、そのわけわからなさを味わうのが面白いと思います。
そうそう。コミケで売ってる通称「薄い本」てのがあって、それはBLの同人誌(8p、16p、32pくらい)を指すんです。今では超メジャーな作家でも(もともとBL出身の人も多いとか)、今だにコミケに薄い本を出してる人もいます。わざわざ名前を変えて出してる有名作家もちらほらいるらしい。
ーー 薄い本ってそういう意味だったんですね。あの…、推しカプって何ですか?(無知すぎる私)
C子 推しカプとは、自分が推してるカップルのことを言います。そのまんまですが。
例えば、サッカー選手の誰かと誰かが仲良しなのをテレビやネットで見たとします。あ~、なんかいいなぁ、素敵だなぁと思ったら、カップルになったシーンを勝手に妄想して楽しむんです。その際には、「攻め」と「受け」も必ず想定します。でね、ここですごく気をつけなきゃならない大事なポイントがある!
ーー その大事なポイントとは?(知りたい!)
C子 決して間違ってはならない、デリケートでシビアな表記ルールがあるんです(真顔)。表記する時は必ず、「攻め×受け」の順番にしないとならない。で、順番をうっかり間違って(ネットなどに)書き込むと、時にBLファンが炎上してしまうこともある。
ーー (呆然)私がもし推しカプをあげるときは、気をつけます…
C子 笑。いや、まぁ、BLを愛する人って、「自分の中の思い入れと妄想で幸せを得ること」に長けてる人だと思うんだよね。自分で「これっ」てものを探したり、もしなければ自分で作ったり、幸せなシーンを創作したり。つまるところBLの世界は、自主的、前向き、受け身じゃないんです。だから、みんな元気なんだよね!
ーー ちょっと羨ましくなってきました。BL、今からデビューしてみようかな。
ところで40代以降は、BLとはどんな関わり方でしたか?
C子 その後、40代半ばから義父の介護生活が始まりました。ある日を境に義父が認知症になってしまったんですが、プライドも高く、施設に預けてもコミュニケーションが難しいタイプだったので、夫婦で自宅介護することにしたんです。毎日つきっきりで、一日中義父のそばにいて見守ってないとならなかった。それが数年続きました。
さすがにその時は、シンドかった。でも、家の中で義父を見守りながらでも何か楽しめることはないか?と探しました。そしたら結局、読書に行き着いた。見守りながらでも読めるからね。だけど、義父の家に自分の荷物を増やしたくなかったので、電子書籍をDLすることにしました。それで、どかんと買まくりました。もう、反動でどかんどかんと(笑)。そして毎日、眠りにつくギリギリまで読んで、「あー、堪能した」で1日を終わらせることができました。
小説でも漫画でもなんでもとにかくDLしたけど、そんな状態だったから、一番気楽に読めるのはやはり漫画でした。BL漫画中心に読み漁った。義父につきっきりでも、気持ちが折れずに最後まで介護できたのは、近くにBL漫画などの好きな漫画があったおかげだと今でも思っています。
ところで、電子書籍は読み放題という手もあるけど、個人的には自分が読んできた歴史も大切にしたいほうなので、好きな漫画は全て手元に置いときたい。なので、一冊ずつDLしてデータで保存しています。

ーー そうかー。たしかにC子さんが介護してた時って、友達付き合いなかったものね。数年ブランクがある。いや、でも、BLが厳しい時間を支えてくれましたなー
C子 BLは、安心してファンタジーを楽しめる世界。そして私の場合は、登場人物に嫉妬を抱かなくて済むんです。しかも、登場人物の間には子供もできないし、生活感もない。そういった現実の生々しさがないところも気に入ってます。
私がBL好きなのを考えてみたんですが、自分を主人公に投影できるから?とも思ったけど、どうやらそうではなかったと途中で気づきました。たぶん、、、母親が息子の恋愛を俯瞰から見守っている感じとか、愛のキューピット的な立ち位置かもしれません。成就した時には、よかったよかったと喜ぶし。また、いざとなれば、がんばれがんばれ!と純粋に応援する気持ちです。