図書館で妖精に会ったことはありませんが、温泉ならあります。

20年以上前の冬、青森の谷地温泉。ぬる湯につかりながら千葉県から来たという老婦人の話に聞き入りました。専業主婦だったけれど、近所のアパートの一室が安く買えたので大家業をスタート。掃除や管理業務を外注せず自分でこなしてコストダウンし、得た家賃を貯めて部屋を増やし、今では複数の賃貸物件を所有。そのおかげで、こうして好きな温泉に好きなだけ滞在できるようになったというのです。

この話には大きな影響を受けました。旅好きとして、こういう老後を送るためには本業以外の収入源が必要だと考えるようになったきっかけです。辣腕の不動産業者というより、おっとりした上品なご婦人。この方こそ私にとっての温泉の妖精です。連絡先を交換していないのでそれっきりですが、人生を変えるきっかけを与えてもらいました。図書館の妖精はベストセラー作家を、温泉の妖精は相場師を生み出したのです。

 

原田ひ香の『東京ロンダリング』にも働き者の大家さん、真鍋夫人(70代)が登場します。谷中にアパートや定食屋、喫茶店など複数の物件を所有し、朝4時に起きて清掃のパートに行き、自分が持っている物件を順に清掃していくのが日課。「だって当たり前じゃないの。ここは私の持ち物だもの。きれいにしておきたいの」が口癖です。「ここまでしてくれる大家さんはめずらしいですよ」と驚く主人公に「ううん、してあげるとかじゃないの。私は自分のものを大切にしてるだけ。きれいにしておかないと家も傷むし、財産価値も下がるでしょ。それにどうせ、ついでだしね」と答えます。

真鍋夫人の名言。

お金は自由。

自由そのものなの。

お金で買えないものはたくさんあるけど、ある程度の自由ならお金で買える。

それが尊いところなのよ。

投資はお金を増やすことだけが目的ではありません。気乗りしない仕事を断る自由。旅に出たくなったら、費用を気にせずに飛び立てる自由。もちろんビートルズが歌ったように「お金で愛は変えない(Can't Buy Me Love)」けれど、お金があれば選択肢はぐっと広がります。

お金の増やし方を教えてほしいという依頼がたまにありますが、これは人によってパターンが異なります。不動産業なら真鍋夫人のような働き者が向いているだろうし、私のように海外志向で山っ気のある人間はニューヨーク市場の個別株。東洋占術は財運の比重が高く、相場と向き合う胆力の鍛え方や世の中の流れをつかむ視点などが大いに役立ちました。とにかく、自分の適性を見極めることは不可欠。高額な受講料の「誰でも簡単にお金持ちになれる占術セミナー」に申し込む時点で、財運アップは期待できません。

このメッセージが公開される頃、私は再びスペイン巡礼の道を歩いている予定。お金が私を自由にしてくれたからこそ、何度もスペインの地を踏めるのです。

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